古 河 総 合 公 園                                  
                                 2007・3・11(日) 参加者:12名 
冷たい雨が降る朝でしたが、雨のち曇りの天気予報に望みを託して渋谷駅へ向かいました。
集合時間に全員揃い、渋谷8時35分発の湘南新宿ラインに乗車、
新宿から乗車の方も加えて総勢12名で、茨城県の古河へ向けて出発しました。
1時間余り電車に乗って利根川を渡り、車窓に雑木林が増えてくると古河に到着です。
タクシーに分乗して10時過ぎに古河総合公園に着きました。

管理棟前で公園職員の牧野さんにご挨拶したり、管理のお話などを伺った後、部屋に入り、
古河総合公園の設計をなさった中村良夫先生(東工大名誉教授)から
古河の歴史や公園が出来上がるまでのいきさつ、コンセプトなどの講義をしていただきました。



星湖釣殿


桃林
段々と小降りになっていた雨が、11時頃に園内見学に向かう頃には止み、青空さえ出て来ました。
星の形をしていた旧御所沼の美称、星湖に因んだ復元沼の前を通り、例年より開花の早い桃林へ向かいました。

間もなく‘桃まつり’で賑わう桃林には、江戸時代初期の古河城主土井利勝が、
江戸で家臣の子供たちに集めさせた種を古河に送り、農民に育てさせたという歴史が残っています。
成長が早い桃は食用として、また薪として利用されたそうです。
明治時代には上野から花見客の臨時列車が出る程の賑わいみせたという古河の風物詩が現代に蘇っているようです。



ガッチャンポンプ


徳源院跡
眺める人が想像力によって新しい景観を発見してほしいと‘意味もなく’コンクリートブロックが置かれていたり、
夏には子供たちに大人気のガッチャンポンプが配置されている近くには徳源院跡があり、
約130年続いた古河公方5代目足利義氏の墓石やその娘、氏女の墓所がひっそりと残されていました。
長い歴史で使い込まれた地相という歴史的遺産と新しい自然の融合がこの公園のコンセプトとされています。



菜の花畑


富士見塚
花菖蒲田や大賀蓮池はまだ季節を迎えていませんでしたが、この公園は年間を通して花をとぎれさせないという
デザインがされていて、早春の菜の花畑が昔懐しい田園風景を見せていました。

晴れた日には富士見塚から赤城・妙義・榛名山の上毛3山、日光連山、浅間山などが展望できるそうです。
御所沼を復元した時の残土を積み上げて、渡良瀬川の堤防と同じ標高22mの高さに作られている塚は、
総合公園のランドマークでもあり、子供たちの芝すべりの場所としても人気スポットとなっているようです。



天神橋


春草席
「湿地を拓いてゆく技術する人間の意志を造形」(「湿地転生の記 風景学の挑戦」中村良夫著)した天神橋は、
公方様の森にあった天神の祠に因んで名付けられた鉄鋼橋で、
「デザインとは空間に意味を与える技術」という中村先生の景観デザイン哲学が織り込まれています。
現代版東屋‘春草席’と共に自然と歴史の地に現代を積み重ねているようでした。
一見、挑戦的にも見える構造物ですが、ゆっくり佇んで眺めていると、何かを物語始める気配を感じます。



管理棟


ジェラテリア
管理棟は内藤廣さん、ジェラテリア(カフェテラス)は妹島和世さんという現代を代表する建築家の手になる
1998年に完成した建物です。この上ないシンプルさで、自然と対峙しているという趣でした。
鏡のように見えるステンレス製の耐震壁は移ろう自然を取り込む仕掛けとなっています。

このカフェレラス前の雪華園は、この公園全体を象徴する‘乾坤八相の庭’として水辺に繋がっていて、
「自然と人間のからみ合いから風景が次々と生成していく」という中村先生の風景学集約の200坪の庭園です。



民家園


 古河公方館跡
1972年に総合公園主要構想案が出来た翌73年にこの地に移築された2棟の古民家の前に広がる茶畑では、
2001年5月から‘ふるさと古河新茶まつり〜お茶つみ体験と百席茶会〜’が開催され、
市民に親しまれるイベントとして定着している様子です。
公園利用者の市民を「文化的プロセスに巻き込む」システムがパークマスター、円卓会議などによって実践され、
市民コミュニティ回復の道を歩み始めているようでした。

鴻ノ巣御所のあった公方様の森入口には‘古河公方館跡’という石碑が立っていました。
この公園は昔の字名、出来事、生物に由来した名前を地名とし、石碑の道しるべを所々に配していました。



御所沼と公方様の森


古河公方広場と管理棟
1975年に5haを開園後、1997年に25haに拡大した総合公園は、
@消滅した沼の復元による自然と文化の再生 A自然と人間との多様な接触を生むデザイン 
B四季折々の自然に親しむ市民の営みという3点が(園パンフレットより引用)高く評価され、
2003年にユネスコのメリナ・メリクーリ賞を受賞しています。
御所沼から水田、そして埋められ放置された荒地という変遷を辿った地が、
現代の名所、入会地として蘇りつつある姿を1989年の基本計画見直しの段階から
この公園に関わられた中村先生にご案内していただき、大変充実した観察会となりました。
先生の「風景学の実践と思索」の場をまた違う季節に訪れたいと思いました。

3時に総合公園を出発し、古河歴史博物館、古河文学館、永井路子旧宅にも立ち寄り、5時過ぎに駅へ向かいました。
朝の雨が嘘のような良いお天気になり、‘赤城おろし’も経験して、
「空っ風が育てた無愛想だが骨太な土地」(永井路子)という古河を充分に堪能した1日でした。